SSブログ

楽天・三木谷社長の隣に座る還暦の男 [人物・伝記]

楽天・三木谷社長の隣に座る還暦の男

  Jインパクト、今回の主人公は最近、テレビでよく見るあの人。TBSの株式買収で脚光を浴びる楽天の三木谷浩史社長の隣に、いつも座っているあの人です。

  彼は國重惇史氏。楽天の副社長。つまり三木谷社長に次ぐ楽天のナンバー2です。でもテレビの映像を思い出してください。40歳の三木谷社長の部下にしては、やけに老けていませんか?

  そうなんです。実はこの國重氏、今年の12月23日に還暦の誕生日を迎える団塊の世代。楽天経営陣の中でも突出した長老です。

  ネットベンチャーの楽天の経営陣になんでこんなお年寄りがいらっしゃるのか。ちょっと不思議に思ったので調てべみました。そして判明した衝撃の事実。

  実はこの國重さん、一つ間違えば、今頃メガバンクの頭取になっていたかもしれないという、とんでもない大物だったのです。TBSへの経営統合の申し入れを実務面で仕切っているのも彼なのです。

  國重氏は運命に翻弄される形で頭取になりそこない、不本意な人生を歩んでいました。しかし最後の最後で三木谷氏と出会い、世間の脚光を浴びる大舞台に上がった。ここで負けるわけにはいかない。「エリートのリベンジ」。楽天=TBS問題の底流に、1人の男の壮絶なドラマがありました。

▼MOF担から同期一番乗りで取締役へ

  國重さんは1968年、東京大学を卒業して住友銀行(現三井住友銀行)に入行しました。8年目で企画部に配属され、MOF担(大蔵省担当)になりました。大蔵官僚と密接な関係を持つMOF担は言わずと知れたエリート中のエリート。

  そのMOF担を10年勤め上げた後、丸ノ内支店長になりました。丸ノ内支店長といえば、郵政公社民営化後の初代社長に決まった西川善文前頭取が務めたこともある枢要ポストです。

  この間に國重さんは社内結婚しています。お相手は磯田一郎元会長の秘書。ヒエラルキーの厳格な銀行で会長秘書と結婚する意味は小さくない。まして当時構内で「ドン」「天皇」と呼ばれ絶対的な権力を持った会長の秘書なら、なおさらです。周囲だけでなく本人も「将来の頭取」を確信していたことでしょう。

  ところが順風満帆に見えた國重さんのキャリアは突然、暗転します。まずは90年、住銀の信用を失墜させたイトマン事件の責任を取って磯田会長が辞任。國重さんは最大の後ろ盾を失いました。

  ただし、住銀の権力構造は磯田氏の辞任後も大きくは変わらず、その後も巽外夫氏、西川氏と磯田氏の息のかかった人々が次々、頭取の座に上り詰めました。その意味では、この時点でまだ、國重さんが頭取になる可能性は残されていたと見てもいいでしょう。実際、94年には國重さんは48歳の若さで同期の一番乗りの取締役に抜擢されています。

  しかし國重さんの不運は続きます。今度は98年、大蔵省を舞台にした過剰接待疑惑が持ち上がりました。まだご記憶の方も多いでしょう。「ノーパンしゃぶしゃぶ接待」に「高級絵画寄贈」。エリート官僚と銀行の癒着ぶりが厳しく糾弾された、一連の事件です。

  住銀など多くの都市銀行はMOF担を廃止。各行でエリート街道を突き進んでいた歴代MOF担の多くは、出世の道を閉ざされました。

▼暗転したキャリアが、楽天で逆転

  銀行での國重さんのキャリアは取締役本店支配人東京駐在で終わり、97年には住友キャピタル証券の副社長に転出しています。その後、DLJディレクトSFG証券の社長になり、同社を楽天が買収した2003年、楽天グループに入りました。

  三木谷社長は、思わぬ拾い物をしたことになります。ネット証券進出を狙ってDLJを買収したら國重氏という切れ者が“おまけ”でついてきた。この逸材を三木谷社長が見逃すはずもなく、國重氏はあっという間に楽天でナンバー2の座を占めました。

  「興銀(日本興業銀行)出身の三木谷社長なら、住銀時代の國重さんを知らないはずがない。自分よりはるかに格上のバンカーが右腕になってくれたのだから、依存したくなる気持ちは分からんでもない」。

  ある住銀OBは三木谷社長と國重さんの関係をこんなふうに解説します。確かにTBS関係の記者会見を見ていると、厳しい質問をされるたび、三木谷社長は國重さんの方に、応援を求めるような視線を送っている。「先輩、何とかしてくださいよ」という声が聞こえてきそうです。

  会見を仕切る國重さんはいつも自信たっぷり。「俺より頭のいいヤツはいない」と言わんばかりの勢いです。

▼新天地での活躍の背景に何があるのか

  現在の三井住友銀行頭取、奥正之氏と國重さんは同期入行。イトマン事件や大蔵省過剰接待事件がなければ、頭取のイスに座っていたのは國重さんだったかもしれない。それほどの逸材だから、M&Aを仕切るくらいは、朝飯前なのでしょう。

  だが、前出の住銀OBはあえて苦言を呈します。「今の國重さんは、楽天という新天地で住銀時代の復讐をしているように見える」。

  もし、このOBが指摘するように、「世間におれの本当の力を見せてやる」という気持ちが、いまの國重さんの原動力だとしたら、その行き着く先は危ういと言わざるを得ません。

  M&Aは新しいビジネスを創造する熱意で進めるべきであり、自分の過去に復讐する怨念が動機では、どんなにうまく立ち回ってもそのスキームはいつかどこかで破綻するものです。三木谷社長が國重さんの復讐心に飲み込まれてしまっているのだとしたら、楽天はTBS問題をきっかけに長い泥沼にはまり込む恐れがあるのではないでしょうか。

(大西 康之)

2005.11.21 NIKKEI BP

nice!(0) 

nice! 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。