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~ ジョン・F・ケネディが生きていたら、ベトナムの悲劇は回避できたか ~ [人物・伝記]

~ ジョン・F・ケネディが生きていたら、ベトナムの悲劇は回避できたか ~

歴史家たちは40年間、この問いの答えを見つけようとしてきた。ロバート・ダレクは、新著『未完の人生:ジョン・ F・ケネディ』で、「イエス」の答えを出した。だがその背後に「ケネディと側近の関係」があることを見落としている。

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ケネディの伝記が明かさなかったベトナム戦争の真実

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ジョン・F・ケネディが生きていたら、ベトナムの悲劇は回避できたか――――。歴史家たちは40年間、この問いの答えを見つけようとしてきた。ロバート・ダレク
は、新著『未完の人生:ジョン・ F・ケネディ』で、「イエス」の答えを出した。だがその背後に、「ケネディと側近の関係」があることを見落 としている。

もしジョン・F・ケネディが生きていたら、ベトナム戦争に全面介入したか――

過去40年間、最も人々を悩ませているのがこの問いかもしれない。ケネディを英雄化した「キャメロットの神話 」が、今も生きているせいもあるだろう。どんなに彼のイメージを汚すスキャンダルが明らかになろうとも、こ の「仮説」だけは語りつがれている。

ケネディがダラスで暗殺されなければ、アメリカは悪夢の10年――5万の死体袋の山、シカゴ暴動、ニクソン 大統領の誕生、シニシズムの蔓延――を経験せずにすんだかもしれない、という期待だ。

歴史家のロバート・ダレクは新著『未完の人生:ジョン・F・ケネディ、1917~1963』で、ケネディはベト ナム戦争を始めなかっただろうと書いている。その見方には賛成だ。だが彼の説は、説得力に欠ける。この問題 を語るときに不可欠な要素を掘り下げていない。

ダレクは、ベトナムの泥沼に介入することを躊躇するケネディの発言――これまでに何度も引用されてい るものだ――を寄せ集めたにすぎない。米兵の引き上げを求めるメモのほか、ジャーナリスト、ウォルター・ク ロンカイトのインタビューで、これは南ベトナムの戦争でありアメリカの戦争ではないと答えたこと、64年の大 統領選で再選されればベトナムから引き揚げると語ったこと、などだ。

だがこうした証拠は、せいぜい可能性を示唆しているにすぎない。たとえば1964年5月27日に録音されたテ ープによれば、リンドン・ジョンソン副大統領は、国家安全保障問題担当のマクジョージ・バンディ大統領補佐 官にこう語っている。

ベトナムは「戦う価値」があると思わない、と。もしジョンソンが翌日死亡して
、(次の大統領がベトナムの泥沼にのめり込んだとしたら)歴史家はジョンソンが生きていたらベトナムから撤退したか を議論することだろう。


●ベトナム戦争の泥沼にのめり込んだのはケネディの男たちだった


それでは、ケネディならベトナムに全面介入しなかったと考える理由は何なのか 。ケネディがベトナムに介入しただろうと考える人たちは、彼もジョンソン同様、「冷戦の戦士」だったと主張 する。

また、ロバート・マクナマラ国防長官、ディーン・ラスク国務長官らジョンソンを戦争に引きずり込んだ 側近を任命したのはケネディだというのが、彼らの主張だ。ケネディの男たちが戦争に向かったというわけだ。

だがここにこそ、ダレクが見逃したケネディとジョンソンの決定的な違いがある。1000日に及ぶ在任中、 ケネディは次第に側近たちに不信感をいだくようになっていた。彼らの誤った判断のために、危機に陥いること が度重なったからだ。

たいていは、ケネディの意見が正しかった。ダレクは、ケネディが軍幹部たちと対立して いたことを鮮明に書いている。だが、ケネディが政権内の側近に対しても同様に距離を置き始めたことには触れ ていない。

ケネディがこの不信感をジョンソンに語ることはなかった。ジョンソンは、ハーバード大学卒の知性 あふれる側近たちに気後れしていたが、同様にハーバードの学位をもつケネディには、その威光は通用しなかっ た。

ケネディと側近たちの関係を変えるきっかけとなったのは、62年10月の「キュバー危機」だった。13日間 にわたって米ソの緊張が高まり、核戦争の瀬戸際に追い込まれた事件だ。アメリカは、ニキタ・フルシチョフ首 相率いるソ連が、核ミサイルを積んだ船をアメリカの目と鼻の先にあるキューバに向かわせているとの情報をつ かんだ。

CIA(米中央情報局)によれば、ミサイルは数週間のうちにキューバに到着し、アメリカの大部分を射程圏内 に収めるという。ケネディは緊急会議を招集し、危機にどう対処すべきかを話し合った。


●キューバ危機をめぐる政権内部の対立がきっかけ


歴史家は危機後の20年間、予防的攻撃をしかけるべきだと主張するタカ派と、平和 的な解決を模索すべきだと進言するハト派に分裂するなか、ケネディが中間の道――武力行使でフルシチョフを 撤退させるのではなく、海上封鎖で対抗する――を取ったことに焦点を当ててきた。

だが82年になって、ケネディとフルシチョフが密約を結んでいたことを側近の一部が明らかにした。ソ連 がミサイルを撤去すれば、アメリカはトルコから中距離ミサイルを撤去するというものだ。

もちろんダレクもこ の密約について言及しており、緊急会議「エクスコム」の内容を録音したテープの発言を引用している。

だがダレクは、最も重要な10月27日――危機が回避された日――に録音された内容に触れていない。この日、フルシチョフが取引を提案してきた。ケネディとジョージ・ボール国務副長官を除くエクスコムのメンバー 全員がこの取引に反対を唱え、キューバのミサイル基地を空爆すべきだと主張した(ボールがジョンソン政権の 異端児になったのも不思議はない)。

フルシチョフの提案が伝えられると、ケネディはすぐに好意的な反応を示した。こう述べているのがテープ から聞き取れる。

「国連の誰が見ても、公正な取引だと思うだろう。たいていの人は、対等な取引のチャンスが与えられたら それを受けるべきだと考える」これに猛烈に反対したのがバンディだ。震える声で、「同盟国との関係に尽くしている政府の人間は、み な同じ気持ちであることをお伝えします。

トルコのミサイルを撤廃するようなことがあれば、同盟関係は著しく 低下するでしょう」と語っている。

マクナマラもかたくなに反対し、「われわれがキューバを攻撃する前」に何らかの段階が必要だと語って いる。統合参謀本部が数日前に提出した計画では、500機の爆撃機で7日間連続空爆し、その後キューバに侵攻 するとある。

ケネディはしばらく黙っていた。「この両日でしなければいけないことを考えていた。500機の爆撃機もキ ューバ侵攻も、トルコからミサイルを撤去しないがために必要になる。血が流れはじめると、人はいきり立つも のだ。

NATO(北大西洋条約機構)のことを考えてみろ。ソ連がベルリンを掌握したら、みんなこういうはずだ。 『フルシチョフの提案に乗ればよかった』とね」


●自分を信じたケネディ、信じられなかったジョンソン


その夜、ケネディは親しい側近たちを執務室に集めてこう言った。弟で司法長官 のロバート(取引には強硬に反対していた)を駐米ソ連大使のもとへ送り、公にしないことを条件に取引に応じることを伝える、と。

同じく取引に反対していたリンドン・ジョンソンがこの集まりに参加していなかったこと は、重要な意味をもつはずだ。彼は、密約についても知らされていなかった。

秘密裏に取引を交わしたことは、後にまで影響を与えている。バンディは88年の回顧録『危機と生還』で 、取引を受け入れなければ、ベトナム戦争や外交に破滅的な結果がもたらされたと告白。

「同僚や国民、同盟国 を欺き、断固としてソ連に対抗する必要がある」と思わせた、と書いている。リチャード・ニクソンは北ベトナ ムに対する強硬策を正当化するときに、キューバ危機の「誤った教訓」を好んで口にしたものだ。

ジョンソンは この誤った教訓を学んだけでなく、ケネディが側近と一心同体ではなかったということを目撃するチャンスを失 った。

極秘に録音されていたエクスコムのテープは、後にベトナム戦争にのめり込んでいくバンディやマクナマ ラに、ケネディが対抗していたことを示す証拠に満ちている。ダレクの伝記には、政権内のこうした不協和音は まったくでてこない。

ケネディが生きていたらベトナムから撤退していたとする説は、側近への不信感から彼が 戦争に懐疑的になっていった事実を抜きには語れない。そして、彼がこの見方をジョンソンと共有しなったこと も大きく関係している。

「ベスト&ブライテスト」(ワシントンの優秀なエリートたち)が皮肉な言葉になる以前に、ケネディは彼 らがまちがった判断を下すことに気づいていた。ケネディは、自分の直感を信じるべきだということを知ってい た。

ジョンソンは、自分を信じられなかった。ジョンソンがベトナム戦争に突入し、ケネディがしなかった理由 は、そこにある。

--- 2003/05/27 (フレッド・カプラン) 翻訳MSN Journal :ジャーナル編集部 ---


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