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『宇宙のひみつ』から始まったサービスの探求(前編) [人物・伝記]

笠原健治ミクシィ社長

『宇宙のひみつ』から始まったサービスの探求(前編)


笠原健治ミクシィ社長(かさはら・けんじ)
1975年大阪府生まれ。東京大学経済学部卒。97年、大学在学中に求人情報サイト「Find Job !」の運営を開始。99年に法人化、代表取締役に就任。2004年2月、ソーシャル・ネットワーキングサイト(SNS)「mixi(ミクシィ)」の運営を開始。現在、430万人を超えるユーザーを抱える、日本最大のSNSに成長。

 渋谷の町を見晴らす、社長・取締役が使用するミクシィの会議室。そこで「社長の本棚」を見せてもらった。

 本棚には、IT企業の社長らしくネットやビジネス関連の実用書が並んでいる。ところどころ、話題のビジネス書に混じって教科書のような分厚い本がある。小説の類いは一切なし。遊びや無駄を省いた、「仕事直結型」の本棚だ。

 ミクシィの社長・笠原健治氏は現在30才、ネット業界で言うところの「76(ナナロク)世代」である。「76世代」とは1976年前後に生まれ、大学時代にパソコンを経験したネット系の起業家を指す言葉だ。

 ネット業界の寵児とくれば、イケイケで押しの強い“いかにも”な人柄が浮かぶ。だが、実際に現れた笠原氏は、言葉をゆっくり選びながら質問に答える“おっとりとした真面目”タイプだった。

 時折「うーーん」と唸りながら、なるべく正確な言葉を探そうと言いよどむ。そんな会話を繰り返していくうちに、少しずつ「歴史好き少年」という過去が明らかになっていった。

 小、中学生の頃は歴史書を異常なくらい読んでましたね。幼稚園の時に、たぶん全6巻ぐらいだったと思うのですが、学研のシリーズ『日本の歴史』を買ってもらったのが始まりでした。

 小学校に入ってからは、いろんな人の伝記や歴史マンガをかなり読んでいたと思います。織田信長なら織田信長のありとあらゆる伝記を見つけ次第読む、というように、気に入った人物の本を探しては読んでいました。

 父親が歴史も好きで、全45巻くらいの『日本の歴史』という分厚い全集が家に置いてあったんです。それも自分が好きな時代の巻はいつのまにか読破してしまい、その後2度3度と読み返していました

 読書量は人並みか、人並みよりちょっと多いくらいでしょうか。小学校5年頃に近くに図書館ができて、週末にはよく通っていました。行くとだいたい4、5冊借りて2、3週間で返していたと思います。中学生の頃は、司馬遼太郎や山岡荘八の歴史ものを、よく読んでいました。あとは、西村京太郎の推理小説やSF小説なんか、当時流行っていた本を普通に手に取っている感じでした。

 堅苦しい「読書」という感じではなく、マンガを読むみたいに本を読んでいたんです。日本史については、けっこうマニアックな子供でしたね。

 昔に読んだ歴史の本は、今でも実家に置いてある。実家は大阪府箕面市のニュータウン、新千里。幼少時代、開発途上の新興住宅街は、すぐそばに山があり、空き地が点在するのどかな場所だった。

 「放課後は、空き地に仲間と集まって野球をしていました」と、当時の思い出を楽しげに語る姿は、屈託のない少年の面影をかすかに感じさせた。

 外でよく遊び、家に帰れば本を読む。そんなごくありふれた日常を送っていた少年が、歴史に強く惹かれた理由とは一体何だったのだろうか。

うーーん、なんで好きだったんでしょうか。小説と違って、フィクションではなく現実に即した話で、かつ自分と同じ人間の足跡(そくせき)であるというところに惹かれたのだと思います。

 戦国時代、南北朝時代や源平時代、あるいは明治維新とか、どうしても華やかな時代に惹かれていました。時代の変革期を扱った話が、非常に好きでしたね。 「この人のここがすごい」とか「ここが好き」という見方をするので、「この人はこれだから嫌い」っていう人物は特にいないですね。

 子供の頃もいまもかっこいいと思っている人物ですか? 意外と思われるかもしれませんが、やっぱり織田信長です。明智光秀も好きなんですが。

 織田信長の好きなところは、…今までの常識にとらわれず、自分の価値観で、ゼロベースでルールを作り、それを実行していったところでしょうか。革新性のあるところに、子供心に惹かれていました。

 「歴史好き」に変化が訪れるのは、18才の時だ。上京し、東京大学の経済学部に入学したのをきっかけに、「過去の出来事」よりも「今起こっている事」が面白くなっていったのだ。

 なぜ経済学部を選んだのか理由を聞いてみると、しばらく考えたのちに「文系で、かつ幅広く世の中を見ることができる学問だと思ったから」と語った。そして、大学3年生のゼミで、笠原氏はインターネットという新たな世界に出合う。

 歴史はずっと好きでしたが、さすがに「アカデミックに極めたい」という気持ちまではなかったですね。

 理由は…そうですねぇ、歴史よりも、今の自分に関係する物事のほうが、リアリティがあって面白いと思うようになったからじゃないでしょうか。自分が生きている「いま」という時代に何が起きているのか、そしてその時代に今後、自分がどう関わっていくのか。大学に入ってからは、そうした方向に興味が移っていきました。

 大学3年の時、新宅純二郎先生の経営戦略のゼミに入ったら、いきなりIT絡みの話ばかりで。当時の自分は、まだパソコンを持っていなかったんです。そんな状態でOSとかブラウザとか言われてもよく分からない。これじゃまずいと思って、自分でパソコンを買い、IT系の本を読んだりするようになりました。

 ゼミでは、IT業界のケーススタディが非常に多かったように思います。 『COMPETING ON INTERNET TIME』はゼミで使った本ですが、サブタイトルに「LESSONS FROM NETSCAPE」とあるようにネットスケープのケーススタディが書いてあります。マイクロソフト対アップル、ネットスケープ対インターネットエクスプローラの規格間競争といった事例を検証していくうちに、IT系業界全般と経営そのものに興味が強くなっていったという感じです。

愛読書は『サンクチュアリ』

 水泳部の部活に明け暮れ、読書量がやや減った高校時代。「いちばん印象に残っている本」の質問には、「実は…、マンガですね」とためらいがちに答えてくれた。そして、本棚から抜き出してきたのは『サンクチュアリ』(史村翔・池上遼一/小学館)。政界と裏社会から日本の世の中を変えようとする2人の男の熱い闘いを描いた作品で、連載終了から10年経った現在も根強いファンが多い。
 連載が始まった時、笠原氏はちょうど高校生。「自分の夢や目標に向かって打ち込んでいる姿が、17、8才くらいの自分に熱く響いた」という。ミクシィの「サンクチュアリコミュニティ」に自ら参加するほど、思い入れが強いマンガなのだ。
 一見すると穏やかそうな笠原氏。だが、その裏側に実は「熱血」な一面を秘めているに違いない。そんなことを思わせる1冊だった。

澁川 祐子

2006年6月30日 金曜日 NBonline 


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