SSブログ

ひび入ったサウジ王国 [Middle East]

ひび入ったサウジ王国

 世界の石油の25%は、サウジアラビアの地下に眠っている。これは、わが国で消費する石油の125年分に相当する。しかし、サウジアラビアの経済と財政は、悪化を続けている。この1月、政府は2年連続で政府支出の削減を発表し、公共料金(電力・水道)の有料化や物価値上げを実施した。
 
 IMFは、サウジの海外資産は650億ドルと、1980年代初めの1700億ドル水準の半分にも達せず、国内の借入金も6年前はゼロであったが、現在840億ドルの巨額に達したと報告している。IMFは、サウジの財政悪化は、今世紀いっぱい続くと推定している。
 
 財政と経済悪化の原因は原油価格の低落のせいだ。サウジは1バーレル=1ドルの低落につき、25億ドルの石油収入減を被る。国庫収入の5分の4は石油輸出に依存し、財政赤字は210億ドルに達し、予算は、20%の歳出カットを決めた。
 
 イブン・サウド大王がアラビア半島の中央部一帯を武力で平定して70年余、サウド王国は、子供から孫の時代を迎えた。6000人のプリンスを抱える王国には、昔あった一体感は薄れつつある

▼誰が後継者か

 誰もがサウド王国に、「変革の嵐がやってきた」といっている。しかし、その担い手はテクノクラート、イスラム勢力や軍部ではない。王室自らがその主役である。王国のトップを構成するロイヤル・ファミリー(王家)の実体は、「政党」にほかならないからだ。
 
 いまファハド国王の後継者をめぐって王国は「ひびの入った」状態(英エコノミスト誌)である。国王は74歳に達し、心臓病と糖尿病が悪化している。しかし、激務は深夜まで続きタバコとお菓子は欠かせない。ファハド国王の後継者には腹違いの弟であるアブドラー皇太子(第一副首相)がなることは、既成事実と考えられてきた。
 
 しかし、1992年の統治基本法は、国王が死亡、執務不能などの重大な事態に陥ったときはまず、数十名の「長老プリンスが新国王を選ぶ」と規定した。必ずしも皇太子が自動的に国王に即位するわけではない(有力候補であるが)。次に、新国王の即位にはウラマー(最高宗教指導者)の承認も必要だ。
 
 さらに、新国王は、始祖の直系の子および孫の「総意」が必要であるとされている。すなわち、約500人いるといわれている「第三世代」(孫の代)のプリンスにも総意があれば国王になる資格がある。
 すなわち、現国王(74歳)、皇太子(73歳)と次の次を狙うスルタン国防省(67歳)の三者は年齢の差もわずかで、存命年数によっては王位の順序と任期に影響を与えずにはおれない。2?3年ごとに代わる短命の可能性もある。
 
 アブドラー皇太子は健康状態も申し分なくやる気十分だ。反面、スルタン国防省には健康上の問題が残るため、皇太子昇格説を疑問視する声が強い。
 スデイリー家はスルタンがだめなら、代役に国王の弟プリンス・サルマン(リヤド州知事、60歳)を担ぐことを真剣に考えている。
 
 サルマンは“次の次”を狙える「第二世代の最後のエース」だ。サウド王家の第二世代は老齢化のため表舞台から去る日は近く、第三世代のサウド外相らの期待の星は、非スデイリー家に多いといわれている。
 
 ところで、サウジには国家警備隊があるが、皇太子は第一副首相であると同時に国家警備隊司令官を兼務し、事実上、警備隊は皇太子の“私兵”である。その兵力7万人はスルタン国防省(第二副首相)の率いるサウジ国軍の兵力10万人と対峙している。

 国家警備隊はベトウィンを守る警護や東部州の石油施設の防衛を任務としている。しかし、国家警備隊には隠された別の一面がある。それは、王室クーデターにかかわってきた歴史である。

▼二つの軍隊

 サウド国王(故人)に退位(1964年)を迫ったファイサル皇太子(当時、後国王即位)は、国家警備隊(ハリド司令官、後国王即位)を王宮に派遣して国王派の近衛兵を押さえ込み“無血クーデター”を成功させた。

 武力制圧ではなく、ウラマーから正式裁可を得たということで、手柄を立てたのが現皇太子だ。論功によりファイサル新国王はアブドラーに国家警備隊をまかせたのである。
 
 ところが、アブドラー国家警備隊司令官に強く反発したのがファハド王子(現国王)らのスデイリー家(国軍と内務省系の警察を率いる)だった。ここからアブドラー皇太子とスデイリー家との間で冷戦が始まった。
 
 さて、“次”の国王がアブドラー現皇太子となれば、国家警備隊司令官の座はどうなるのか---------。
 
 第1のケースは、アブドラー新国王誕生と同時に、国家警備隊を国軍に編入する場合だ。これはスデイリー家の作戦だ。アブドラーは「裸の王様 」になるから当然反対だ。
 
 第2のシナリオは、国家警備隊司令官のポストを盟友に与える場合だ。このシナリオの可能性は十分考えられる。しかし、スデイリー家は反対だ。皇太子に対するスデイリー家の包囲作戦は始まっている。ファハド国王は統治基本法を公布し、「国家は軍隊を創設する」と宣言した。

 しかし、この規定はサウジ国軍のみを指し、国家警備隊を否定するのではないかと、アブドラー皇太子が激怒したといわれている。あわてたファハド国王は、同日付で引き続き皇太子が国家警備隊司令官の地位にとどまると、わざわざ勅令によって表明したほどだ。
 
 国家警備隊は質実剛健で、ベトウイン魂の伝統を守り、スンニ派の一派ワハビズムの中核的武装集団でもある。始祖イヴン・サウド王のボデイガードから出発したと言う名誉もある。皇太子自らも世俗の富や名声には一線を画している。隊員の皇太子に対する忠誠心は強い。
 
 一方、国軍の方は湾岸戦争の中心であり、装備面ではすぐれているが声望と士気に欠ける。もし、アブドラー皇太子が新国王に就けなければ、国家警備隊によるクーデターの可能性が高いとエジプトの著名なジャーナリストであるモハメッド・ヘイカル氏は予言している。

 その時、米軍はどう動くか。石油供給は保障されるか。原油価格はどこまで暴騰するのだろうかーーーーー。</font>
<font size="2" color="green" style="line-height:150%;">
--- 1995/6/17 週間東洋経済  クロード 鳥越 ---

 


nice!(0) 

nice! 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。