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近未来小説「SHOWDOWN(対決)」-10 [Others]

(10)勝つか、負けるか

 【インド洋上空1万2000メートル 2009年9月30日】

 米空軍のB2戦略爆撃機は2機だけでもう4時間も飛んでいた。2飛行大隊合計8機のうち6機のB2が失われていた。乗員12人、米空軍の全B2戦力の3分の1近くが失われたのだ。そのうち2機は地上での事故で損害を受けたので修復は可能だという。他の4機は完全な喪失だった。

 「ボス、ディエゴガルシアまであと2時間です」

 マット・オバノン空軍中佐は副操縦士の計算をチェックした。

 「そう、2時間10分だな、ジェリー。新しい住まいが気にいるといいな」

 「いやあ、大変でしょうね。最も近いまともなバーまでは5000マイル、インターネットのつながりは悪いし、食堂は冷凍食品ばかり、参っちゃいますね」

 「そうだな。ところで新しい大統領は和平交渉をどう進めているかな」

 「さあ、しかし新大統領は戦時のクラターバック前大統領よりはましでしょう。でも戦争の最中に彼女が突然、辞任してしまったのには驚きましたね。後任の彼はだいじょうぶのようです」

 「発進直前に得た情報では米中間の停戦はきちんと実施されているようだ。北朝鮮は国家としてはもう消えてしまった。どうせ中国が支配するのだろうが」

 「そうでしょうね。傀儡政権をつくればいいのだから。日本も尖閣諸島を中国に提供し、完全に屈服しましたね。なにしろ第2の大都市が壊滅したのだから他に方法もない。米国はもう在日米軍基地をすべて放棄せねばならないですね」

 「そうだろう。でも私は日本の将来について考えさせられる」

 「どのようにですか」

 「日本はこんご第二次大戦後にしたようなことは絶対にしないだろう、ということだ。自国を非武装に近い形にして、米国を信じて頼り、防衛を任せる。だが米国は肝心な際に日本を守らなかった。日本の歴史を考えてみろよ。こんごの日本はやがて強力な自主武装の道を選ぶこと間違いなしだ」

 「核武装も含めてですか」

 「そうだよ、ジェリー。日本は中国に対してと同様に米国にも怒り心頭だ。10年後を想像してみろよ。日本人は日本に戦争を仕かけた中国と大阪が核攻撃を受けるのを抑止しなかった米国とを忘れはしない。日本の核ミサイルは米中両国に照準を合わせることになるだろうな」

 「まあ当面は私たちはインド洋のディエゴガルシア基地に着陸できるだけでも幸運ですね」

 「中国はいまや西太平洋の全域でしたいことをできるようになってしまった。米国はもうこんご長い年月、歓迎されないわけだ」

 「米国だけのミスではないでしょう」

 「ミスかどうかは意味がない。問題は勝つか、負けるか、だ。われわれは日本に有していたすべてを失った。韓国にはほんのみせかけだけの米軍が残ってはいるが、1年かそこらでそれも引き揚げることになる。中国が東アジアの全域を支配するのだ。その支配を阻む方法はいまはまったくないというわけさ」(以上、第5章「中国と日本の戦争」)

 本書はそのほかにも中国がその政治、軍事の固有の体質から台湾への侵攻、朝鮮半島での軍事行動、石油資源をめぐる米国との衝突などの各種の戦争を起こしうるとして、第8章までで各種の戦争シナリオを提示している。しかし同書の最大の主眼は日中戦争をも含めて、この種の仮想事態を現実に起こさせないことだと強調し、最終の第9章「封じこめ、関与、抑止、米中戦争を防ぐための努力」でそのための具体的政策を列記している。結論としては、最大の主眼は中国の軍事面での自由な威圧や侵略の行動を抑えるための抑止だと強調している。=おわり

 ジェド・バビン/エドワード・ティムパーレーク共著

 抄訳=ワシントン駐在編集特別委員、古森義久

(産経新聞 2006/10/25 10:00)

 


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