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近未来小説「SHOWDOWN(対決)」-4 [Others]

(4)中国はどこまでやる?

 【ホワイトハウス 2009年7月10日】

 「各地の抗議デモは相互に連携しあっているのですか」

 女性大統領が質問した。毎朝、大統領の最初の執務となるインテリジェンス・ブリーフィング(情報説明)だった。危機はイスラム青年たちの暴動など欧州でも中東でも起きていたが、中国が話題を独占した。

 CIA長官が報告した。

 「中国のすべての主要都市で反日デモが起き、相互に連携しながら暴力的となっています。昨日のデモ参加者は推定2000万、人民解放軍が各地のデモを組織したことは確実ですが、その勢いを過少評価したようです。反日感情が各地で燃えあがっています」

 中国の今回の反日の契機は「日本人スパイ事件」だった。中国で働く日本人のコンピューター技師と農業専門家が中国の国家機密を盗んだ容疑で逮捕され、裁判にかけられていた。中国側の策謀だった。中国政府は同時に日本に対し尖閣諸島の放棄を求めていた。

 CIA長官が説明を続ける。

 「尖閣は無人の島ですが、全世界でも最も豊かな部類の石油と天然ガス資源の上に位置しています。胡金涛主席はテレビで日本に対し、その島の放棄とともに、南京虐殺からケネディー大統領暗殺まですべてについて謝罪することを求めています。とてつもない要求です」

 大統領が口をはさんだ。

 「で、中国はどこまでやる気なのですか」

 CIA長官は「日本側の石油と天然ガスの資源の獲得を目指すことは明白です」と答える。国家情報長官が「私たちはそんな情報は得ていないが」とさえぎる。CIA長官は「中国が日本にミサイルを撃つと威嚇していることは私たちみんなが知っています」と反論する。国家情報長官が「日本側も海上部隊と航空部隊を動員している」と述べると、CIA長官は「でも日本側の軍事力はたいしたことがない」と返す。

 すると、女性大統領が手をあげて、2人を制した。

 「要するに中国の意図はわからないということですね。いずれにせよ、そんなちっぽけな島に私たちはかかわっていられない。当面は静観です」

 と、室内の隅から太い声が発せられた。

 「中国の動向をもっと徹底して偵察する必要があります。尖閣への衛星偵察を強化し、同時に南沙諸島のような場所も監視せねばならない。南沙では中国がなにか新たな施設を築いているようです」

 国家安全保障会議の副補佐官ジム・ハンターだった。背広だったが、現役の海兵隊中将である。その落ち着いた語調に室内が圧せられた感じだった。

 「初めてまともな提案を聞きました。そうしましょう。すぐに国防長官を呼びなさい」

 女性大統領が命令した。

 【南沙諸島 同年7月24日】

 米海軍特殊攻撃部隊SEALの指揮官カリー・オバノン少佐は無線マイクにささやいた。

 「ヘッケルとジェッケル、現在地はどこか」

 「あなたのすぐ後です」

 そんな応答とともに、黒と緑に塗られた顔が二つ、背後の闇から現れた。2人とも格闘技の選手のようなSEAL隊員だった。

 「さあ、中国軍はあそこでなにをしてるんだ」

 「ボス、驚きです。CIAの情報はまちがい、中国人たちが建設しているのはホテルなどとはとんでもない。軍の司令部と訓練施設です。電子偵察の機器に加えて、対空ミサイルのSAMが5、6基、装甲車も6台、確認しました」

 「そうか、では偵察の任務達成だ。まもなく浮上する潜水艦でこの島を撤退しよう」

 「ちょっと失礼」

 2人の隊員は背後の茂みから手足を縛り、口を封じた中国軍兵士の体を引っ張り出し、手早く注射を打った。記憶を一時的に奪う薬だった。(つづく)

 ジェド・バビン/エドワード・ティムパーレーク共著

 抄訳=ワシントン駐在編集特別委員、古森義久

(産経新聞 2006/10/19 10:00)

 


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