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近未来小説「SHOWDOWN(対決)」-3 [Others]

(3)米国は動かない

【横田基地・米第五空軍司令部 2009年7月8日未明】

 「いやあ、これは大変だな」

 マット・オバノン空軍中佐は重い双眼鏡を胸に下ろして、ため息をついた。格納庫の背後に立って、上空をみつめていたのだ。

 「中佐、驚くことはありません。ミサイルは数基、せいぜい最大限10基ですよ」

 「そうだな、私も9か10まで確認した」

 中国のミサイルが明るい月に照らされた日本上空を通過したのだった。事前にその動きを知らされたオバノン中佐は部下とともに横田基地からその飛来を双眼鏡でとらえていた。

 日本政府も中国からこの時間帯に上空を越えるミサイル発射の事前警告を受けていた。中国側の軍事的威嚇だった。

 「この発射はどんな意味があるのかな」

 中佐が部下にたずねた。

 「中国は前にも同様のミサイル発射をしており、それほど重大な意味はないでしょう。ただし日本側はきわめて深刻に受けとめています。それは当然ですが」

 中佐はうなずいて格納庫横のオフィスにもどり、暗号化されたパソコンの通信をチェックした。

 「おっ! こっちのほうが大事件だ。中国海軍がロシア軍と合同で実弾発射の演習を開始した。沖縄の南西にある尖閣諸島の至近海域だ。ここでは中国は半年前にも演習をしたが、今回は規模がずっと大きく、島への上陸の態勢をとっているという」

【北京・中央軍事委員会 7月8日夜】

 胡金涛主席が将軍たちを見回し、口を開いた。

 「さあ、日本に対する戦争の無血部分をいま始めるかどうかだ。司令官、準備は完了したか」

 軍事委では日ごろみなれない海軍の制服を着た将官が緊張した口調で答えた。

 「はい、主席、いつでも開始できます」

 この将官は中国人民解放軍の秘密機関「サイバー戦争本部」の司令官だった。この本部は広東省の遠隔地の地下深くに設置されていた。司令官は報告した。

 「主席のかねての指示どおり、まず最初に東京証券取引所のコンピューターシステムを特殊ウイルスで麻痺させます。この余波は欧米の証券、金融のシステム全体へと広がります。そして次に日本の軍事防衛の通信ネットワークを崩壊させます。さらに主席の命令次第で日本の配電網を瓦解できます。日本国全体が機能を停止し、闇の中で孤立することになります」

 「孤立?」

 「はい、もし主席からの命令さえ出れば、わが衛星攻撃兵器が米国や欧州の通信衛星、航行誘導衛星を破壊します。欧米の人工衛星が使えなくなれば、日本はまったくの無防備となり、孤立するわけです」

 胡金涛は満足げにうなずき、やや間をおいて、将軍たちに告げた。

 「そうした行動をとれるのは、よいことだ。なにも日本を侵略して、征服する必要はない。だが、わが国が新たな支配力を行使する新周辺地域においては、日本でも、あるいは他の国でも、もし中国に逆らえば、瞬時に服従させることができるということなのだ」

 胡はさらに言葉をついだ。

 「米国は行動をとるまでに何日もちゅうちょするだろう。だがこうした形での日本の制圧には結局は抵抗しないこととなる。とくに私が米国大統領に中国が米国の通信網や配電網を破壊する能力を持っていることを伝えれば、米国は日本を救うためには、動かない。さあ、司令官、持ち場にもどりなさい。そして準備を進めなさい」(つづく)

 ジェド・バビン/エドワード・ティムパーレーク共著

 抄訳=ワシントン駐在編集特別委員、古森義久

(産経新聞 2006/10/18 10:00)

 
 【メモ】中国人民解放軍の実態に切り込んだ近未来小説「ショーダウン(対決)」は米国で出版され、日本語版は来春にも産経新聞出版から刊行される予定。本欄では「日中戦争」の章を中心に同書の抄訳を紹介している。

 


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