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近未来小説「SHOWDOWN(対決)」-2 [Others]

(2)「靖国参拝参拝を阻止せよ」

【ホワイトハウス 2009年6月25日】

 米軍統合参謀本部議長は閣議に出て、2時間を過ごしたが、安全保障問題がほとんど論じられないまま、クラターバック大統領が閉会を宣言しそうなのに気づいた。軍人の同議長は発言しようとした。

 「ちょっと一言、中華人民共和国は危険な存在--」

 大統領は閣僚に中国の正式呼称をできるだけ使うことを命じていた。同議長は中国の野心的な軍拡について課題を提起しようとしていた。だが国務長官にさえぎられてしまった。

 「いや、中華人民共和国は昨年の北京五輪の成功にまだひたってますよ」

 「まさに北京五輪にこそ中国当局がエネルギー供給を優先した結果、一般国民は貧しく、飢えるようになってしまったのです。当局は国民の怒りと不満を外にそらすためにアジアで軍事行動を積極果敢にしようと意図しています」

 「将軍、中華人民共和国を恐れることはありません」

 女性大統領はため息をつき、鼻メガネごしに統合参謀本部議長をにらみながら、議長の発言を抑えた。が、同議長は続けた。

 「ASEAN(東南アジア諸国連合)との軍事使節団相互派遣の要請にわが方はまだ答えていません。早く応じるべきです。中国の脅威を考えると、小国をみすてないという原則の明示は重要です」

 しかし大統領は即座に反論した。

 「中国も米国の友人です。投資と貿易のパートナーです。その中国に懸念を抱かせるような軍事使節の相互派遣には反対します。中国を挑発する必要はない」

【北京・中央軍事委員会 同年7月1日】

 胡金涛主席が将軍たちに告げた。

 「日本の首相が来週、靖国神社への参拝を計画しているが、わが政府としてその中止を求める外交要求をすることにした。首相がもし参拝すれば、中国人民を侮辱することになる。中国人民が日本のこの好戦的な行動をどう受けとるか、保証はできない。実際に参拝があったとき、どうするか。またその際に協議をしよう」

 胡はここまで語り、書類の束を小脇に抱えて、足早に去った。

【ホワイトハウス 同年7月6日】

 大統領が日本の首相に電話で語りかけた。

 「ご機嫌はいかがですか、首相。こちらの独立記念日の祝賀に参加していただけず、残念でした」

 「元気です。しかしいまの日本は不安に満ちています。その原因である中国について、お話したいのです」

 「中華人民共和国は最近、静かですね。なにが不安なのですか」

 「わが国ではもうすぐ先祖の霊を悼むお盆の季節です。私はこの時期に天皇のご意向をも受けて、靖国神社に参拝するつもりです。これまで私たちの参拝のたびに中国側が強く抗議をしてきた。今回は天皇ご自身もお参りをされる予定です」

 「なぜ参拝をするのですか。第二次大戦で戦犯とされた人物たちの霊も祀られているのでしょう?」 首相は一瞬、沈黙し、少し待ってから大統領に語りかけた。

 「あなたの懸念は感謝します。しかし戦争で死んだ250万もの日本国民の霊を祀る神社に日本の首相が参拝することを中国の政府が禁じることはできません」

 「でも中国を挑発することもないでしょう。参拝はやめたらどうですか」

 「国民が首相の参拝を求めているのです。でも参拝の結果、中国がミサイルを撃ってきたら、米国はどうしますか。中国はすでに尖閣諸島を脅かしています。日本国民も中国の侵略を恐れています」

 「では火をつけるようなことはしないでください」(つづく)

 抄訳=ワシントン駐在編集特別委員、古森義久

(産経新聞 2006/10/17 10:00)

 
【メモ】中国人民解放軍の実態に切り込んだ近未来小説「ショーダウン(対決)」は米国で出版され、日本語版は来春にも産経新聞出版から刊行される予定。本欄では「日中戦争」の章を中心に同書の抄訳を紹介している。

 


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