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近未来小説「SHOWDOWN(対決)」-8 [Others]

(8)核爆発が確認された

 【横田基地・米第五空軍司令部 2009年8月11日】

 「さあ、発進だ!」

 マット・オバノン空軍中佐は自分の指揮する飛行大隊の格納庫の前に立ち、部下たちがそれぞれの飛行機に向けて走るのをみていた。最後の乗員が搭乗機にたどり着くのを確認して、中佐も自分の機に乗りこんだ。3分後、中佐のB2ステルス戦略爆撃機は他のB2、3機に続いて滑走路を疾走し、未明の上空へと舞いあがり、護衛のF15戦闘機編隊と合流した。

 「ジェリー、アトキンス大佐に連絡して、全員が命令どおりに離陸したかどうかを確かめてくれ」

 オバノン中佐は乗機が3000メートルほどの高度に達したとき、インターホンで副操縦士に指示した。副操縦士は戦闘機に乗った飛行指令のアトキンス大佐と交信した。

 「全機全員が予定どおりに飛び立っています。戦闘機の先導で、われわれもレーダー探知の良好状態のまま飛行しています」

 「よかった。緊急の避難がうまくいってよかった」

 米軍の司令部は敵の動きをいち早く察知した。中国の大軍が海上を南下していた。沖縄方向へと動いていたが、米側は日本本土の米軍基地への攻撃も予測して、第五空軍に横田基地からの全機の緊急避難を命じたのだった。

 副操縦士はきちんと座って、計器類を点検しながら、オバノン中佐に語りかけた。

 「ボス、これからどうするのですか。第五空軍全部隊がいま空中にいますからね。おっと、最新情報です。中共の部隊が巡航ミサイルを多数、発射しました。目標は沖縄です。中共の戦闘機や爆撃機の編隊も沖縄に向かっています」

 副操縦士と中佐は同時に頭上のF15、F16の編隊をちらりとみあげた。彼らの乗った爆撃機は音速をはるかに超えて飛んでいた。

 「中佐、太平洋統合軍司令部がこちらの戦闘準備状況を知らせろと命じてきました。通常のトマホーク巡航ミサイルを装備しているだけだと答えておきました。こんご数時間は飛べますが、そのあとは給油が必要になります」

 「さあ、どんな命令が出るか」

 オバノン中佐はそうつぶやいたあと、ほんの少しだけ乗機の飛行方向を変えた。後続の3機のB2もそれに従った。

 沖縄には数千人の米海兵隊員がいるが、短時間のうちにその多くが死ぬのだろう。このB2が搭載したトマホークは日本に接近してくる中国軍艦艇を阻止できるかもしれない。米海兵隊員の一部を救うこともできるかもしれない。

 【ホワイトハウス 同年9月23日】

 「大統領!」

 クラターバック大統領は中国の軍事攻撃のショックからまだ完全には回復できないままだった。在日米空軍の地上の航空機をかろうじて緊急避難させ、戦闘能力を温存したことは一般からほめられた。それでもなお日米両国の航空部隊が多大な被害を受けた。だが中国の沖縄侵攻はどうにか反撃し、防ぐことができた。

 女性大統領は毎時間、国内世論調査の数字を熱心に読んでいた。大統領への支持率は戦闘での死者数が急増するにつれ、急降下していた。将軍連は女性大統領の優柔不断にいらだちを高め、敏速な決断を求めた。この大統領のだらしなさはマスコミにも流れたが、副大統領が自分の地位を守るために、ひそかに内部情報をリークしているのだろうと、大統領自身は信じていた。米国中が女性大統領への非難で満ち満ちていた。彼女は単に平和を守ろうとしただけなのに。

 と、女性大統領の思考を北米航空宇宙司令部(NORAD)の司令官からの電話が遮断した。

 「大統領、いま日本の大阪で核爆発が確認されました! 大統領、そして国防長官あての緊急報告です」(つづく)

 ジェド・バビン/エドワード・ティムパーレーク共著

 抄訳=ワシントン駐在編集特別委員、古森義久

(産経新聞 2006/10/23 10:00)

 


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